私が挑戦する理由。石川くみ子

石川くみ子の挑戦する理由【その1】

折口信夫の思想にふれて

折口信夫の思想にふれて

読書が大好きな「お嬢さん」のまま好きな勉強を続け、研究者、大学非常勤講師としてのキャリアを継続してきました。専門は日本政治思想史、政治学、死生学と多岐にわたりますが、なかでも民俗学者・折口信夫や柳田國男、文芸評論家・保田與重郎の思想を研究してきました。

とりわけ折口が宗教を核に据えた親密圏(血縁によらない親密な関係性にもとづいて形成され、出入り自由な共同性)を構想・実践し、いかに国家批判を展開したかの分析を試みました。それは、国民が一丸となって戦争遂行に動員される総力戦体制に対する抵抗の一形態とみなすことができます。「弱い」個人がそれを否定する「強い」国家に対抗して共同体を形成しようとした営みであり、人間の「弱さ」を認め合う共同性をいかに作り上げていくかがわたしの研究生活のみならず実生活においても重要テーマでした。

一方、非常勤講師とはいえ大学教員としては、常に、卒業後に就職等で実社会に出る学生に有意義な教育を行いたいと考えてきました。将来、社会や家庭において、自立しつつもさまざまな人びとと関わり投票等の政治活動にも参加するという、よき「市民」となるために有意義な思考方法を提供したいと思いながら講義やゼミを行ってきました。

女性の場合は出産・育児によるキャリアの中断が珍しくありませんが、その場合でも「市民」として育児や介護を通じて社会とつながることが大切だからです。これらの講義やゼミを通じて、生涯を通した読書習慣を身につけ、自分自身で疑問点をみつけ解決策を探り、資料を調べ適切な人に相談し、自分のことばで自分の考えを表現する能力を身につける手助けをしたいというのが、今も変わらぬわたしの願いです。

石川くみ子の挑戦する理由【その2】

困りごとは突然やってくる。それはわたしも同じ

これまで毎年、講義の最後に折口信夫の思想を紹介し、「失敗を繰り返しても絶望せず、他者とのつながりのなかに生きる」ことを伝えてきました。学生さんたちが活動をはじめ、「失敗が許されない」と萎縮する傾向が年々強まっていることが気になったからです。

しかし気づけば、自分自身の「就活」が上手くいかず1年契約で経済的な待遇もよくない非常勤講師という立場でワーキング・プアの境遇から抜け出せず、また母子世帯の貧困の瀬戸際に立たされてしまいました。元気だったはずの両親は年老いて入院・手術をし、介護予備軍となっています。

子どもたちは幸い区立保育園に通うことができましたが、待機児童となっていたら教員・研究者としてのキャリアを継続することすらできなかったでしょう。「偶然」や「幸福」によってなんとか成立していた生活は、いったん歯車が狂ってしまったら当人の努力ではどうにもならない状況に陥ってしまいます。「困りごと」は突然やってきて、本当に困ってしまったら当事者は身動きが取れなくなるのです。

石川くみ子の挑戦する理由【その3】

社会問題を解決できる土壌

世田谷には
社会問題を解決できる土壌があった!

ところで世田谷区には、世田谷市民大学という区民の学習の場があります。私もゼミ講師補佐や講義の講師を務めさせていただいたことがあり、受講生の皆さんの熱心さには感動すら覚えます。しかし昼間開講なので、どうしても受講生はシニア層がほとんどとなります。

世田谷区にはまた、世田谷区生涯大学というシニアカレッジ(二年制)もあります。せっかくこのような区民向け教育機関があるのだから、それを統合し、若年層も含むもっと多くの方の手に届くようにできないのだろうか…というのが、かねてから気になる点でした。

一方、個人で「大人のための政治学講義」を主宰するに当たり、区民センターや区民集会所を利用しようと思い立ったところ、区内施設利用の問題点が見えてきました。ターミナル駅近くの施設以外はいつ使われているのかわからないほど利用されていなかったり、赤ちゃん連れ可の講義にしようとしても施設内飲食不可だったりするため、ミルクや離乳食持参で参加してもらうことができません。そもそも事前に団体登録をして利用料引き落とし口座を準備しなければならないので不便すぎ、多くのグループは利用を断念してしまうようです。

逆に、駅から少し遠いということは住宅街にあって自宅からアクセスしやすいということになりますし、飲食や利用手続き等に関しては規約を変えれば改善できるということでもあります。さらに世田谷区の空き家活用事業と組み合わせれば、待機児童対策として保育利用も可能になりますし、働く母を悩ませる「小1の壁」対策、すなわち学童保育施設として利用することもできるでしょう。利用されていない施設を使いITを活用してサテライト授業を行えば、自宅近くに学びの場が作れるのではないでしょうか。

石川くみ子の挑戦する理由【その4】

嘆いているだけでは変わらない。動けるのは今

研究者として「弱い」個人がそのままで生きていける共同性を追究し、教員として失敗を絶望に直結させてはいけないと学生さんたちに説き、「よき市民たれ」といっていた自分がこのまま手をこまねいていてよいはずがありません。口先だけの人間ではなく、まずは行動しなければならないと痛感したのです。

当事者予備軍となった今ならまだ動けるので動くしかない!今、動けない当事者に代わってセーフティ・ネットを作らなければならない!という気持ちに駆られ、立候補を決意いたしました。嘆いていてもなにも変わらないけれど、行動を起こせばなにかが変えられるはずなのです。そのような「政治」の力を、わたしは信じています。

このような問題意識から、行政と住民をつなぐ政治家という役割・仕事に関心を持つようになり、みずからがその役割を担いたいと真剣に願っております。